2025年、人は「買い物」をしなくなる/望月智之

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ショッピング体験の発展で、人々は「買い物」をしなくなる。もちろん、お金を支払って何かを買うことがなくなるわけではない。なくなるのは、これまでの買い物におけるさまざまなプロセスだ。店に行くことや、現金を用意すること、商品の現物を見ること、さらには商品を自分で選ぶことも含まれる。その過程で私たちを待っているのが、本書で詳しく述べる「デジタルシェルフ」である。

人々は買い物のために店に行かなくなる

 こうした買い物のわずらわしさを大幅に解消してくれたのが、ネットショッピングだ。皆さんの中には、もはや「ネットショッピングなしの生活は考えられない」というほど身近になっている人もいるだろう。

 ネットショッピングは、買い物の中で最も面倒な「店に行く」というプロセスを省略してくれた。ほかにも、決済が簡略化され、値段や機能の比較もしやすくなったなど、それまでのショッピングと比べると革新的な要素は多い。楽天、AmazonZOZO、メルカリ、アットコスメなどは、誰でも一度は使ったことがあるはずだ。

 ただ、日本において、消費者向けECEコマース=電子商取引)の市場規模は約18兆円だ。この数字は大きいようにも見えるが、実はすべての商取引のうちECが占める割合、つまり「EC化率」は、わずか6.22%しかないのだ(経済産業省「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より)。ネットショッピングが当たり前の時代になったといっても、全部が全部、それで済むようになったわけではない。

 とはいえ、EC市場規模・EC化率の数値は年々右肩上がりで、今後もこの流れがそのまま進むことは明白である。

その結果、どうなるか?

 人々はわざわざ買い物には行かなくなり、実店舗は街から姿を消していくだろう。すでに地方の商店街では「シャッター通り」が珍しくなくなっているが、今は賑わっているショッピングモールや百貨店であっても安泰ではない。

 アメリカでは、大型ショッピングセンターが次々に姿を消しており、UBS20194月に発表したレポートでは、ECのさらなる普及の影響などで、2026年までに米国内で5000店もの小売店が閉店すると予測されているのだ。日本でも、大手アパレル会社のオンワードが、国内外で全体の約2割に相当する600店舗を閉鎖するというニュースは衝撃を与えた。人口減少や働き手の不足は、構造的にも経営にさらに影響していくことになるだろう。

 同レポートによれば、閉店する店の種類で見てみると、特に影響が大きいのが衣料品店」で、同期間で1000店が閉鎖の憂き目に遭うと見られている。「アメリカの今を見れば日本の10年後がわかる」と言われるが、日本でも現実世界の店舗が消えていく流れは避けられそうにない。

ネットショッピングを日頃から愛用してる身からすれば、確かに実店舗へ足を運ぶ機会が昔と比べると減っていると実感する。Amazonで必要な物や欲しかった物を購入すれば、翌日には配達してくれるという便利さを知ってしまった以上、実店舗に行く機会が減ったことは、仕方ないことなのかもしれない。実店舗では商品を実際に手に取って見ることはできるが、その商品の使い心地までは購入してからじゃないとわからない。しかし、ネットショッピングなら、購入を検討している商品を他の誰かが先に購入して、その商品について詳しくレビューしてくれていれば、その商品のメリット、デメリットを知ることができ、購入時の判断材料に活用することができる。また、実店舗で購入するよりも商品の価格が安かったりもする。これだけネットショッピングのメリットが多ければ、人々が買い物のために店に行かなくなる理由もわかる。

あらゆるデバイスが商品棚になる

 本書の定義するデジタルシェルフとは、「世の中の電子化が進む中で、日常の身の回りにある、ありとあらゆるものがシェルフ(商品棚)になること」である。そしてその意味は「技術的な革新」にとどまらず、「私たちの生活や価値観の変化」といった現象も指している。

 デジタルシェルフ時代の初期に起こるわかりやすい変化は、私たちが持っているあらゆるITデバイスに商品棚が移動することだ。今までは、欲しいモノがあれば、必ず店舗に足を運んでいた。店舗のほうが消費者にとってたくさん商品があったからだ。それがECのおかげでネット上のほうが商品も多くなり、店員に聞かなくても口コミで良し悪しの判断もでき、すぐ届くというインフラができ、商品を探すのも買うのもネットになった。

 これにより、販売する企業にとっても、「リアル店舗の棚の一等地」に商品が並んでいることよりも、「オンライン上の棚の一等地」に並んでいることが重要になった。

 この変化が企業にもたらす問題はつある。つは、リアル店舗なら営業マンを多く雇い、小売店に営業することで棚を獲得できたが、ネット上ではECモールの支配するAIで棚は動いていて、お金をかけても自由にコントロールできないことだ。もう1つは、デジタル上の棚で、自社の商品が一等地にどれくらい並んでいるかを可視化できないことだ。これは棚が無数の場所に点在しているためとリアルタイムで棚が変化しているためである。

 皆さんはご存じだろうか。たとえばミネラルウォーターでは、Amazonと楽天で最も売れているブランドがまったく異なることを。楽天ではクリスタルガイザーが売れ筋ランキングの位だが、Amazonではキリンの「アルカリイオンの水」が位である(201910月現在)。そしてリアル店舗のドラッグストアでは自社のPB(プライベートブランド)商品が位になっていたりする。

 つまり、われわれがあるリアル店舗の売れ筋ランキングで見た「人気のミネラルウォーター」は、全国的に見て本当に売れている商品であるとは限らないのである。商品によっては、InstagramTwitterで検索して人気商品を探す消費者もいる。消費者はランキング上位の商品を信用して購入する傾向があるため、企業としてはオンライン上でもランキング上位に載せる必要がある。

 また、こんなこともあった。ある大手日用品メーカーが、数年ぶりに主婦に向けて新商品発売するので、大々的にテレビコマーシャルを打った。ドラッグストアなどでは棚を確保していたが、ECモールやロコミサイト、SNSなどではその商品について露出がなく、大失敗してしまったのだ。また別の企業では、商品レビュー上で、あるユーザーから商品の悪口が書かれたままで残っていたため、販売するのに長い期間にわたって苦労していた。これらはデジタル上の商品情報を見過ごし、管理できていなかった例である。

 このように、消費者にとっての棚は、デジタル上に移ったのである。メーカーは今まで売る部分は小売りに任せていればよかった時代から、自社で売ることに関しても管理が必要な時代になった。実際、どの企業もデジタルシフトを戦略として掲げているが、現実にはデジタルの棚を管理しきれていない。

有名ユーチューバーやインスタグラマーなどが自身のチャンネルやアカウント上に、企業から依頼されて商品の紹介をしているが、これも時代の流れによって生まれた新しいマーケティングの方法になる。テレビよりもネットをみる量が増えたり、一般人が芸能人のような影響力を持つ現代になったからこそ、今までのようなテレビだけにCMを打つといった方法では取り返しのつかない失敗を起こす原因になるのだ。今後、企業が成長していくための必須条件として、質の良い商品を作るだけではなく、ネット上でどれだけうまくマーケティングをできるかが重要になる。

 「買い物」に対する考え方が、世界でどのように変化してきているのか、人々の買い物事情について知ることができる書籍です。

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