自分が欲しいものだけ創る!/野崎亙

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スープストックトーキョー、ジラフ、100本のスプーンなど、様々な分野で人気のブランドを手がけるスマイルズ。事業展開においては「市場調査」も、「割引」も、「広告」もしない。大切にしているのは、生活者としての自分を基点にすること。「N=1」から始めるイノベーション創出、「関係性のブランディング」による市場分析など、スマイルズ独自のメソッドを公開する。

スマイルズはマーケティングをしない?

 一つひとつの事業を借り物ではなく自ら生み出し、ブランドとして育てていく。それも周囲の状況に過度に左右されることなく「これがいい」と思えることを事業にしていくこと。当然、時として成功するケースも失敗するケースもあるのですが、どのブランドにおいても共通している考え方と言えるでしょう。

 

 そんなスマイルズの事業開発やブランディングに対するスタンスはどのようなものかをご紹介します。僕たちはまず、事業の企画や開発にあたって従来型のマーケティングは基本的に行いません。市場や市場規模の分析、マーケットイン発想、トレンド分析もしないし、競合も離だか知らない。ということは、差別化やポジショニングも考えようがない。「3年後に100店舗出店を目指す」というような具体的な数値目標も掲げません(当然、計画はありますが、それが絵に描いた餅であることは承知しています)。

 

 では何を重視するかというと、いま、目の前に見えている未来のお客様とどういう関係性を持つかということ。そのためにはその人に憑依する勢いで、その人の欲求や心の動きを妄想する。満足のいく顧客体験を提供するために具体的なシーンを描く。イメージを膨らませる。提供するものにオリジナリティやユニークネスがあるかにこだわるーといったところです。僕らが大切にしているのは、目の前に見える誰かに対して、自分らしいやり方で、その方の体温があがる価値を提供することなんです。

 

 事業や企画を開発する際はスマイルズらしい順序があって、「センス実業本質」というステップで進めます。ここで言う〈センス〉とは価値観のことであり、様々な価値(品質が高い、安い、生産背景、ブランド力など)を統合した顧客にとっての判断のモノサシを指します。「おいしいだけじゃなく見栄えもよくないとだめだ」とか、「商品のクオリティよりもその生産背景に惹かれる」とか複雑に入り組んだものです。

 

 多くの企業はまず〈実業〉(ビジネス上の価値)を最優先するのではないでしょうか。とどのつまり儲かるか、儲からないか。その可能性が見出せなければ普通は事業が始まらないですよね。あるいは、〈本質〉(社会的意義)が先んじる事業もあるでしょう。世の中はこうあるベきだ、世の中を変えていくという意志のもと、興されていく事業は少なくありません。当然僕たちもそういった思考が全くないかと言えば嘘になりますが、第一に追求するのはセンスであり、その事業が実現しようとする価値観に自分たち自身が共感できるか、あるいはその延長線上の話として、顧客の共感を得られるかどうかにこだわります。だからこそ自分たちが「やりたいこと」や「これがいい」と思えることに端を発して始まります。

 

 センスが受け入れられたならば、ビジネス上の帳尻を合わせにいきます。現にスープストックトーキョーもジラフも収益性を確保するまでに長い時間がかかりました。普通の会社であれば、途中で諦めていたかもしれません。それでも粘ることができるのはその事業が「会社が決めたからやっている」わけではなく、「やりたいことをやる」「欲しいからやる」ことから始まっているからだと思います。「儲かりそうだからという理由だけで事業をやる」ということは皆無なわけです。

 

 そして最後に本質=社会的意義。事業を長く続け、顧客への共感が拡がる中で、ある種、必然的に社会的な存在理由も生まれてくると考えています。CSR的な視点から、事業活動とは別次元で社会的活動を行うというよりは、共感の連続による事業活動の延長線上に浮かび上がってくるということです。(中略)

 

 世の中で日々様々なサービスや商品が現れては消えていくわけですが、戦略的撤退は別にして、うまくいかないビジネスの中には「これが価値のはずだ!」という事業者側の一方的な視点で作られているケースもあります。それがダメとは言わないけれども、いざ生活者としての自分の思いに素直に向き合った時、「なぜこれにお金を払うのか」という心理的な動きが見えていなければ、事業者の押し付けになりかねない。それはビジネスとして健全とは思えないし、そもそもそういうビジネスは成功の確度が低くなってしまいます。

 

 だから僕らは、自分が生活者だったら本当にそれを受容しうるか、なぜそれを買い求めるのかを精緻に捉えることを一番大切にしているんです。このスタンスにおいて、アンケートを取るとかペルソナを設定するといったマーケティング的アプローチは大して必要ないわけです。

ビジネスの基本は「誰が喜んでくれる」「誰かの役に立つ」ことです。

 

自分が考えたビジネスが誰かの喜びに繋がり、その喜びが最終的に「お金」という形になって還元されます。

 

マーケティングとは、誰をターゲットにして、どのように商品を売り込んでいくかという戦略ゲームのようなものです。

 

少し大袈裟に言えば、マーケティングが成功するかしないかで、会社の未来が決まってしまうぐらい重要なものです。

 

しかし、このマーケティングに必死になりすぎて、消費者に提供するサービス(商品)の質が落ちてしまう企業も少なくありません。

 

たとえば、某シャンプーメーカーのCMに有名女優を複数名起用してCMを作った企業がありました。マーケティングの視点からすれば、有名女優もみんなこのシャンプーを使っていると消費者に思い込ませることができるため、莫大な広告費を費やしてでも宣伝する必要がありました。

 

結果的に、ブランド名の認知度と購入者の獲得に成功したのですが、問題は莫大な広告費を費やしてしまったために、そのシャンプーの原材料にはあまり良い物を使用できなかったことです。

 

マーケティングに必死になるあまりに、低品質のモノを消費者に販売してしまうのであれば、それは単なる「金儲け」になってしまいます。

 

スマイルズのようなマーケティングをしない代わりに、消費者目線で本当に消費者が必要としているモノ何なのかを第一に考えてくれる企業は素晴らしいと感じました。

N=1とはなんぞや?

 本書の中では「N = 1」という言葉が度々登場します。「N = 1」とはすなわち、アンケート調査における「サンプル数」が1つということを意味します。一般的にはn = 1000とかn = 10000とか数が多いほど有意性が高いと考えられているものです。仮にアンケート調査において、「サンプル数は1名です」と自信満々に答えたら、あなたの今後の会社における立場は危うくなるかもしれません()。しかしながらたった1つのサンプル数(すなわち自分自身や近しい誰か)だからこそ見出しうることがあるのです。知らない1000人の誰かを理解することより、自分自身や近しい誰かを知ることの方が圧倒的に容易いはず。言い換えるならば、自分自身の欲求や行動の発意を理解せずして、知らない誰かの感情の機微を捉えるのは不可能に近いのではないかと思うわけです。あなたがこれから生み出すであろう企画や事業において、「N = 1」にフォーカスを当て、あなた自身や誰かの経験や込み入った感情の機微、非合理な行動モチベーションを理解することができれば、これまで見えてこなかった「問題」や「課題」、「解決策」を探し当てる糸口となることでしょう。本書では様々な事例を用いながら、「N = 1」から始まるマーケティングやクリエイティブの新しいあり方についてお話しできればと思います。

生活者の視点に立つことがクリエイティブの大原則

 どんなサービスやプロダクトも、生活者としての自分、事業者側の反対側にいる生活者としての自分が、なぜこれにお金を払おうとするかという心の揺れ動きが見えていなければ、一方通行的なものになってしまいます。

 

 だからスマイルズでは生活者としての視点を何よりも大事にしています。僕たちのどの事業でも、基点にあるのは「N = 1」という考え方。自分や確実に存在している誰かを出発点として、「自分がお客様だとしたら、こういう商品がほしい、こういうサービスがあるとうれしい」という一生活者としての視点を重視するということです。

 

 ただ、気をつけないといけないのは、生活者の視点と事業者側の「こうなったら面白い」と考える妄想が、一見似ていること。両者はしっかり区別しないと、むしろ事業のリスクになります。

インスタグラムの「フォロワー」や「いいね!」が増えやすい人の傾向として、共通していることがあります。

 

それは、インスタグラムを利用している何万人もの人をターゲットに投稿するのではなく、自分自身が知りたいと思った内容をメインに投稿している人です。

 

なかなかインスタグラムが伸びない人は、投稿内容が誰に向けての投稿なのかを明確にできていないことが原因です。

 

それに引き換え、自分自身が知りたい内容を投稿する人は、自分と同じ疑問や価値観を持っている人が投稿内容を目にしてくれるだけで、投稿に「いいね!」をしてくれたり、次の投稿も気になると思ってくれれば「フォロー」もしてくれます。

 

つまり、「N=1」の関係を大切にする人はインスタグラムが伸びやすい人なのです。

 

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